オレンジ色
 薬屋の向かいの文房具屋に入っていった祐也を見つめる。

あいつ本当に何を考えているんだ。今どき交換ノートなんて女の子でもしないかもしれないのに。それを男同士でやるなんて。

あいつはまだ勉強も出来るだろうし、文章書くのも苦手じゃないと思うけど、俺はそうじゃない。作文なんて一行埋めるのに必死なのに。何を書けばいいんだ。
 まだ始まっていない交換ノートのことで、なぜか頭がいっぱいになった。

 でも、祐也の色んなことがわかるのかもしれない。

普段どんなことしてるのかとか、何を見てるのかとか、今まで口じゃ言えなかったこと、全部。俺のページは何も書けないけど、祐也のページは、早く見たい。


 俺がゴタゴタ考えている間に祐也が紙袋を抱えて走ってきた。

「はい。」

 差し出されて、でも。

「俺文章書くの苦手なんだけど。」

 ちょっと戸惑った顔をして見せたら。

「俺も得意じゃないから。」

 そう言って笑った。

 お前の“得意じゃない”と、俺の“苦手”が同レベルだとはどうしても思えない。

「お前から書けよ。」

 そう言ってノートを押し返すと。

「シンの字が見たいから、シンが先。」

 よくわからないことを言い出した。

「じゃ、俺も祐也の字は見たことないから、お前が先。」

「そんなに先に書くのイヤ?」

「イヤだ」

 強く言った俺の言葉に、祐也がノートを自分のカバンにしまった。

「じゃ、俺から書く。次会った時に渡すから。」

 そんなことを言われたら。

「会いたいような会いたくないような気持ちになる。」

「会いたいって思ってくれてたんだ?」

「そりゃね」


 短く会話をしている間に雨はすっかり上がっていて。

天のどこかから、もう家に帰れと言われているような気がした。



「それじゃ、帰ろう。」

 切り出した祐也の後を付いて家に向かった。
 いつもの交差点でいつものように別れて、いつも通りに家に入った。

いつも通りに部屋に入って、いつも通りにベッドに横になったのに。いつもと違う。




 制服から、祐也のコロンの香りがした。
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