オレンジ色
 学校が終わってすぐ教室を飛び出して、商店街へ向かった。

カズに一緒に帰ろうと誘われたけど、急いで行かないとすれ違ってしまうかもしれないから、先に教室を出てきた。

 そのうちカズもここを通るだろうから、そしたら一緒に帰ろう。

 商店街の入り口の、いつも祐也がいる場所で道行く人の波を見つめていた。


 俺の方がここで待つのは始めてだ。


いつもばったり会うぐらいで、それと言って待ち合わせたこととかもなかった。

 紺色のブレザーの制服が前を通るたび、目をこらして祐也を捜して。

 待つことがこんなにもどかしいことだとは知らなかった。

「おーい、シン。まだ逢えないのか?」

 遠くの方から叫ぶような声が聞こえてきてそっちの方角を見た。


「…まだ。」

 小走りで俺の横まで来たカズが、鞄を肩にかけ直した。

「俺も一緒に待つよ。」

 上がった息を整えながらそうつぶやいたカズの肩越しに、こっちに向かって走ってくる人影が映った。

 紺のブレザーの、その人影が、前を歩いてる人にぶつかって、何度も謝りながら、それでもこっちに向かって急いでいるようで。でもその姿を見て、カズが「あ!」と叫びながら指さした。


「あれ、そうじゃないか?」

「うん、さっきから気づいてた。」

 なんとなくカズに負けたくなくて、強く言った。

「シン、良かった、違うかと思ったけど、」

 50メートルダッシュな速さで走っていた祐也が、俺の目の前で止まった。

「別に歩いて来てよかったのに。逃げないし。」

 嬉しくて嬉しくて仕方なかったから、その感情は押しつぶした。

「だって、早く会いたかったから。」

 笑顔で祐也がそう言った時、カズが明後日の方向を見ながら俺のひじをこづいた。

カズも一緒に喜んでいるようで、顔がどこか笑っていた。


「これ。」


 特に話す言葉が見つからなくてノートを祐也に差し出すと、まだ息が上がっていてまともに返答できないのか、笑顔でノートを受け取られた。
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