オレンジ色
 とりあえず本当にトイレに行きたかったのかもしれないから、カズをトイレの前まで連れてった。でもやっぱり入るつもりはなかったみたいで、トイレの前で立ち止まったまま話し始めた。


「なんかさ・・・相沢って、お前のこと好きかもしんない」


 何を言ってるんだ?

「祐也さんに話しかけてるフリしながら、ずっとお前のこと見てるんだよな」

「勘違いだろ」

 オレはただキョトンとした顔をするしかなかった。

「いつもオレなんか通り越してカズに話しかけるじゃん」

 思い当たるようなカズへの態度を探して、言ってみた。

「だってオレの席シンの後ろじゃん」

 崩された。

「オレ相沢とほとんどしゃべったことないし。絶対カズのが多くしゃべってんじゃん」

 またオレは持ち出してみた。

「本命になかなか話しかけられないような女の子、多いじゃん」

 それも崩された。

「相沢はそんなことないだろ」

「いや、お前のこと好きなんだと思う」


 キッパリ、カズがそう言った。


 好きな人のことを思いすぎるあまりの心配にすぎないとオレは思った。

相手のことを好きになりすぎて、他に好きな奴がいるんじゃないかとか、きっとそういう心配の一つに過ぎない。

 相沢がオレを好きなんてことは、まずありえない。

「心配しすぎだよ」

「・・・オレ、お前に取られるなら、それでもいいと思ってる」

「は?」

 またカズが意味のわからないことを言い出した。

「他のヤツに取られると腹立つけど、お前だったら仕方ないかなって」


 自信を完璧になくしてるカズにちょっと腹が立って。



「オレが好きなのは祐也だ!」



 叫んで、オレはその場を去った。



 あとに残されたカズが慌ててオレを追いかけて、小さく「そうだよな、ごめん」とつぶやいたから、オレもちょっと頭にきてたのが冷めて「オレもごめん」と小声で言って、席に戻ったのだった。
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