オレンジ色
「おい、相沢」


 学校に着くなり相沢の席の前まで行って、思わず机もバンッと叩いた。

「えっ!? あ、星崎君か、びっくりしたぁ~」

「びっくりしたぁ、じゃない。お前祐也に何したんだよ」

 それほど大声を出したつもりはなかったけど、相沢の後ろに広がる教室の風景の中の何人もがオレのことを見てた。でも、そんなこと気にしてる余裕もなかった。

「何って…アタシは別に何もしてないわよ…?どうしたの?」

「とぼけるな! 昨日祐也に何かしたんだろ。何かイヤなこと言ったんだろ」

 本当にとぼけてる相沢の表情を見てだんだんイライラしてきた。


 さっさと言え。早く言え。
 それしか頭になかった。


「あ、アタシは本当に何もしてないよ? 祐也さんがどうかしたの…?」

 それでもシラを切り通すつもりなのかと、口を開けた瞬間に誰かに肩をつかまれた。

「何してんだよ、シン!」

 肩越しに見えた顔は、カズだった。

 この状況でオレが何を言っても、カズは相沢の味方だ。


 信じるもんか。


「離せよ。こいつが祐也に何か言ったんだよ」

「相沢が? 何かって?」

「何も言ってないって…言ってるじゃない…っ」

 相沢が両手で顔を覆って下を向いた。

「おい、シン。謝れよ」

 後ろから聞こえるカズの声にも、イライラした。



「女は泣けば済むと思ってんのかよ。冗談じゃない!」



 その場から一番始めに逃げ出したのは、やっぱりオレだった。

 自分の席まで行って鞄を抱えて教室を飛び出した。

「待てよ、シン、どこ行くんだよ!」

 カズの声が聞こえた気がしたけど、それはすぐに頭から消えた。
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