オレンジ色
 次の日は、憎たらしいほどの快晴だった。

空の向こう側まで見えてしまいそうな透明な空。オレの心とは正反対だ。

 濁ってて、よどんでて、卑怯で、すぐに人を傷つけて。

 だんだん自分のちっぽけさが見えて来た。

それと同時に、仮に自分が、もし祐也と結ばれることがあったとしても、祐也とオレじゃ不釣り合いすぎて、きっとすぐに終わってしまうんじゃないかとも考えた。


「……あ、れ?」


 N高生の制服ばかりが目立つ商店街の入り口に、紺色のブレザーが立ってる。

遠目だからわからないけど、無意識にオレの足は早足になって、最後には駆け出しそうだった。

「…あ。シン、おはよう」

 近くまで行ったところで、あたかも当然のことのようにそう言ったのは、やっぱり祐也だった。

「…何、してんの」

「ノート、渡そうと思って。待ってた」

 言いながら、手に持ってた紅褐色のノートを差し出してきた。

「朝じゃなくても、いいのに」

「すぐに渡したかったんだ」

 すぐに…?ということは、今さっき書いたってことなのか?

「それじゃ、オレもう遅刻しちゃうから、先に行くね」

 よそよそしくオレの前から走り出した祐也に、オレは、何も返事が出来なかった。

 オレの手に残った“すぐに渡したかった”ノート。


 何が書いてあるんだろう。


 オレの代わりに相沢に告白しといてくれとかだったら、ヤダな。

 それとも、相沢さんにヨロシク、とか、社交辞令でも書いてあるんだろうか。


 すぐに渡したかった、ノートは、オレはすぐ読むのはやめた。


 今日の昼休みにでも、屋上で読もう。
 泣き出しても平気なように。


 誰にも、見つからないように。


 
 そして、そのノートを開ける瞬間が来た。

いつも一緒に昼飯食ってるカズに、今日は一人で食べると告げて教室を出て来た。

屋上からの風景は相変わらず透明な空だ。雲一つない。


 震える手でノートを開ける。


 大きく深呼吸して、一度目を閉じて、ゆっくり開けた。



 祐也の綺麗な字が並ぶ。
 オレのページの、次のページ。


 開けた瞬間に、オレの時間が、止まった。
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