オレンジ色
「あのさ」

「な…何?」

 一つ、息を小さく吐き出した。

「オレ、好きな奴がいるんだ」

 言って、少ししてから、これじゃあまるでオレが今から相沢に告白するみたいだと思った。

 案の定、相沢は目を泳がせながらもオレの次の言葉を待っているようだった。

「祐也」

「え?」

「オレ、祐也が好きなの」

 慌てて名前を出して言ったけど、今度は、そんなことをどうして相沢に言ったのかという理由がなくなってしまった。

「祐也さんが好きって…?」

 相沢も意味がわからないみたいだった。当たり前だ。オレだってわからない。

「…だから、ごめん」

「え?」

「…いや、意味わからないんだったらいいよ、別に」

「…え?」

「ただ、謝りたかっただけだよ。気にしなくていいや。じゃあね」


 相沢の隣をすり抜けてその場から逃げ出した後、一度教室に戻った。

 もう教室には誰も残ってなくて、電気も消えていた。



「…あ。オレンジ」



 自分の席に座って外を見たら、真っ赤に染まろうとしていた空に出会った。

 今まで、何度となくオレンジ色の空に出会った。

意識して見上げるようになったのは、小学生の頃から。

イジメってほどひどくはなかったけど、クラスの大半からオレは嫌われる存在だった。

誰かと進んで話そうとはしなかったし、元々笑うのも苦手だった。休み時間に席から立つこともほとんどなくて、教室で一人ぼっちだった。


 その日の放課後、オレは初めてオレンジ色の空に出会った。


 暖かかった。暗いオレの心なんか見えなくなるぐらいに、明るい空だったんだ。
< 74 / 87 >

この作品をシェア

pagetop