生まれたての放課後。
「“綾が悪いんだよ”……とか、言ったな」
学校の門をくぐって、放課後の部活動の声が聞こえてきても、わたしの耳は宏くんの声しか拾えなかった。
さっきから変わらない一定トーンの声。
校舎の中に入る。
人のいない冬の廊下は、つめたい。
「だからさっき、あいつが声かけてきたときびっくりしたんだ」
卒業後はじめての会話だったらしい。宏くんが
やんわり笑った気がした。
「……久しぶりに声聞けて、元気そうで、安心した。」
そう言った宏くんの横顔は、優しかった。
忘れられない、ってことは。
安心した、ってことは。
宏くんは、まだ。
「それで、……さっき茶倉のこと彼女ってうその紹介したのは、あいつのこと安心させたかったから、で。…ごめん」
「………うん?」
宏くんの声に首を傾げる。
長い廊下を歩くたび、1年前からの謎の答えが、結びついていくようだった。