クール女子と大泥棒が恋すると、
「意外だった。
千歳が薔薇が好きだなんて。」
「…………」
黙って薔薇にカバーを覆い被せる。
「違う……。」
「え……」
俺が好きなのは…………
薔薇じゃない。
「紗夜が好きだった花だから。」
あんなことがあった後にこんなこと言うなんて、
俺はサイテーだな。
「そう……なんだ……」
伊緒の声はすっかり元気をなくしているのに、俺は話を続けた。
「いつだったか、言ってた。
薔薇は、触れるとトゲで痛い思いをするから、近づきがたい花だけど、
本当は他のどの花よりも綺麗で、
儚くて、
寂しがりやなんだって。」
まるで自分みたいだと、あのときの俺は思った。
でも、その美しさは紗夜の方が似合うと気づいた。
触れた後に、トゲがあるって分かった。
こんなんなら触れなければよかったのだろうか。
どうすれば痛くて泣かずに済んだんだろう……。
カバーに雨が当たってまるで薔薇が泣いてるみたいだった。