クール女子と大泥棒が恋すると、





家にはインターホンがない。


ノックはしてはいけない。



「お母さん、ただいま。

僕だよ。千歳。」



しばらくたった後、ドアが小さく開き、隙間からお母さんが覗いた。




「……お帰りなさい……。千歳……。」



痩せこけた頬の上にはクマが出来ている。




「……こんな時間まで……どこで遊んでたのよ……。
お母さんにばっかり苦労させて……。」



「……ごめん……。でも!明日になれば……!」



お母さんはため息をつき、ドアを大きく開けた。



家の中はいつも暗い。

電気代節約もあるけど、

何より借金取りに在宅を気づかれないため。




「……大丈夫……。

どんなになっても、お母さんは千歳の味方だから。」


借金取りが戸を叩く間ずっと、

呪文のようにお母さんはこの言葉を繰り返す。




その姿はあまりにも痛々しくて、

絶対に明日の計画は成功させないといけないと心に誓った。







< 26 / 323 >

この作品をシェア

pagetop