クール女子と大泥棒が恋すると、
家にはインターホンがない。
ノックはしてはいけない。
「お母さん、ただいま。
僕だよ。千歳。」
しばらくたった後、ドアが小さく開き、隙間からお母さんが覗いた。
「……お帰りなさい……。千歳……。」
痩せこけた頬の上にはクマが出来ている。
「……こんな時間まで……どこで遊んでたのよ……。
お母さんにばっかり苦労させて……。」
「……ごめん……。でも!明日になれば……!」
お母さんはため息をつき、ドアを大きく開けた。
家の中はいつも暗い。
電気代節約もあるけど、
何より借金取りに在宅を気づかれないため。
「……大丈夫……。
どんなになっても、お母さんは千歳の味方だから。」
借金取りが戸を叩く間ずっと、
呪文のようにお母さんはこの言葉を繰り返す。
その姿はあまりにも痛々しくて、
絶対に明日の計画は成功させないといけないと心に誓った。