こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
これは今から百年前の話。
それから、世界の力関係は何も変わっていない。
フィリアムはにげなきゃと足に力を籠める。彼らは人を人と思わない。彼らにとって人は家畜同然なのだ。
街一つを滅ぼしたということは、彼らは奴隷を調達しに来たのだろう。捕らえられたら最後、死ぬまで彼らの奴隷として扱われる。もしくは殺されるか。
これ以上ないほど危機的状況なのに、自分の足はピクリともしない。
「やだ……動いて……」
焦っても体は動かない。
さっきまで、街の惨状に涙を流していたのに。いざ、自分の命が危ないとなると、涙も引っ込んでただ逃げようとする。
薄情だと思ってる。けど、恐怖には抗えない。
お隣さんの方を助けを求めて見るも、目の前の光景に夢中で彼らの眼中にフィリアムの姿はない。
そして、ついに空に浮かぶそれがスッと体を動かした。
こちらの方に。
ああ、死ぬんだと顔を歪める。
お母さんの言いつけを守っていればこんなことにはならなかったのに。
きっとこれは罰なんだ。お母さんの約束を破った罰。
「お母さん……お父さん……ごめんなさい」
涙を流した時、自分の体に誰かが触れた。