こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
◆
「どうしたんだ?」
「いや……そこに人がいたような気が……」
デュークはアラウディに言われた方を見る。
「何もいなくね?」
「……見間違いだったか」
アラウディはジッと気配をしたところを見つめる。だが、今はもう何も感じ取れない。
本当に見間違いだったのかもしれない。
「いいじゃん、人なんてさ。早くやることやって戻ろう……親に気付かれたら俺の立場上マズイの知ってるだろ?」
デュークを見るとソワソワと体を揺らしている。同時に、今は炎に照らされ、どちらかと言えばオレンジに近い金の髪が風で揺らめく。
「じゃあ……ついてこなければよかったじゃないか」
「それは目覚め悪いし、やだ」
「……わがままだな」
アラウディはめんどくさい奴、と呟くと眼下に視線を向けた。
翼が広がり、黒い羽が舞い落ちる。
「俺も“黒の一門”に生まれたかったなぁ……」
そんな声につられて振り返る。
自分の背に生える黒い翼を見ているデュークに、アラウディは眉を顰めた。
「上級貴族に生まれておいて、なに言ってるんだ」
「上級貴族なんてしがらみしかねぇよ……」
そんなのは自分の家も同様だ。
「……俺の一族だって何も変わらない」
そう、何も変わらない。
自分がしたいことを堂々とすることなんてできやしない。
この翼がある限り。
だが、堕天して生きていくことは不可能だ。
「……まぁいい。御託はいいから、早く終わらせるぞ」
そう呟いて、アラウディは燃え盛る街の中に身を投げた。