こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—









「どうしたんだ?」

「いや……そこに人がいたような気が……」


 デュークはアラウディに言われた方を見る。


「何もいなくね?」

「……見間違いだったか」


 アラウディはジッと気配をしたところを見つめる。だが、今はもう何も感じ取れない。
 本当に見間違いだったのかもしれない。


「いいじゃん、人なんてさ。早くやることやって戻ろう……親に気付かれたら俺の立場上マズイの知ってるだろ?」


 デュークを見るとソワソワと体を揺らしている。同時に、今は炎に照らされ、どちらかと言えばオレンジに近い金の髪が風で揺らめく。


「じゃあ……ついてこなければよかったじゃないか」

「それは目覚め悪いし、やだ」

「……わがままだな」


 アラウディはめんどくさい奴、と呟くと眼下に視線を向けた。

 翼が広がり、黒い羽が舞い落ちる。


「俺も“黒の一門”に生まれたかったなぁ……」


 そんな声につられて振り返る。
 自分の背に生える黒い翼を見ているデュークに、アラウディは眉を顰めた。


「上級貴族に生まれておいて、なに言ってるんだ」

「上級貴族なんてしがらみしかねぇよ……」


 そんなのは自分の家も同様だ。


「……俺の一族だって何も変わらない」


 そう、何も変わらない。
 自分がしたいことを堂々とすることなんてできやしない。
 この翼がある限り。

 だが、堕天して生きていくことは不可能だ。


「……まぁいい。御託はいいから、早く終わらせるぞ」


 そう呟いて、アラウディは燃え盛る街の中に身を投げた。



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