こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—










 心臓がドキドキしている。

 そりゃそうだよ。突然口抑えられて、後ろに引っこ抜かれるようにして倒れこんだんだから。

 そっと顔を上げる。

 そこにいた人の顔を見てフィリアムは思わず顔を綻ばせる。


「おと——」

「しーっ」


 ハッとして口を噤む。

 そのまま数分してお父さんは、はーと深く息を吐き出した。


「もう喋っていいぞ」


 お父さんはフィリアムの口から手を離して、柔らかい笑みを浮かべる。


「元気にしてたか?フィオ」


 その微笑みに我慢しきれなくてお父さんに思い切り抱きつく。


「おとぉぉさぁぁぁぁぁん」

「ああっ泣くなって、可愛い顔が台無しだぞ」


 泣くなって言われてもそんなのムリ。

 緊張感から解放された安心感で、もう何が何だか自分でもわからない。


「とりあえず家に帰ろうか」

「うっうん……」


 抱き上げられるままにお父さんの首にしがみつく。


「よしよし、いい子だ。と、その前に」

《キャァッ》


 お父さんはそこで不満げにしていたエアリエルを鷲掴んだ。


「おいコラ……てめぇ……なに、人の可愛い娘にちょっかい出してんだ?」


 そう言ったお父さんの顔は一生忘れられない気がする。


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