こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
◇
心臓がドキドキしている。
そりゃそうだよ。突然口抑えられて、後ろに引っこ抜かれるようにして倒れこんだんだから。
そっと顔を上げる。
そこにいた人の顔を見てフィリアムは思わず顔を綻ばせる。
「おと——」
「しーっ」
ハッとして口を噤む。
そのまま数分してお父さんは、はーと深く息を吐き出した。
「もう喋っていいぞ」
お父さんはフィリアムの口から手を離して、柔らかい笑みを浮かべる。
「元気にしてたか?フィオ」
その微笑みに我慢しきれなくてお父さんに思い切り抱きつく。
「おとぉぉさぁぁぁぁぁん」
「ああっ泣くなって、可愛い顔が台無しだぞ」
泣くなって言われてもそんなのムリ。
緊張感から解放された安心感で、もう何が何だか自分でもわからない。
「とりあえず家に帰ろうか」
「うっうん……」
抱き上げられるままにお父さんの首にしがみつく。
「よしよし、いい子だ。と、その前に」
《キャァッ》
お父さんはそこで不満げにしていたエアリエルを鷲掴んだ。
「おいコラ……てめぇ……なに、人の可愛い娘にちょっかい出してんだ?」
そう言ったお父さんの顔は一生忘れられない気がする。