こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 エスニアの森——それは、この世界で一番広大な森だ。
 エスニアの木々の樹齢は皆、万を超えると言う……太古の森。昔から神の森と言われる場所だが、その森に立ち入る者は誰一人としていない。

 何故なら、帰ってきた者は誰もいないからだ。公式に残っている記録の中では、ただ一人として。


 何故わざわざ危険を冒してそんなとこに行くのかと、疑問に思う。
 お父さんとお母さんが今まで天上人に見つからないよう、神経をすり減らしていたのは知っている。
 とはいえ、今住んでいる場所も森の中で、今まで天上人は勿論、他の人間にすら出会ったことがないような場所だ。


 フィリアムの顔を見てお父さんも大体察したのか、一瞬悩むような素振りを見せた。

 だが、諦めた顔をして真剣な眼差しを向けた。


「お父さんはなぁ……実は堕天した人間なんだ」

「————!!」


 お父さんの打ち明けたことに、フィリアムはこれでもかと言うほど目を見開く。


 ——堕天、それは自ら翼をもぎ取り、天から地に堕ちた人のことを言う。

 つまりだ。
 お父さんは元天上人ということだ。


「……なんで?」

「大嫌いだったんだ。この翼が」


 お父さんは背中に手をやる。その動作は無意識のように見えた。


「翼をもぎ取り、晴れて反逆者として追われる身となった俺は地上へ逃げた。だが、地上でも隠れる場所なんて殆ど無くてな……友人の元に長くお世話になるわけにもいかなくて、最終的にエスニアに逃げ込んだ」



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