こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
パキ……
フィリアムは一際大きな根を踏むと、上を見上げた。
太く、そして天に向かって真っ直ぐ伸びる幹は、緑の苔で覆われていた。
ほんの少しの木漏れ日すら許さないほど、樹々の枝葉は重なり合っている。
だけど、陰鬱とした雰囲気はなく、何かに包まれる安堵感があった。
「あと少しよ」
お母さんがそんなことを言う。
こんな同じような木ばかりのところで何故そんなことが言えるのか。
お父さんはそのことに対してちっとも不思議と思っていないようだった。
そのことも不思議だ。
それから小一時間程度歩いて。
いい加減“あとちょっと”に疑問を持ち始めた時、お母さんの足が止まった。
「着いたわ」
フィリアムはキョトンとしてから前を見つめる。眼前には今までと変わらない景色しかない。
お母さんの顔を見つめる。
「なぁに?」
「……どこに村があるの?」
「目の前に」
そう言ってお母さんは徐にフィリアムの手を掴んだ。そして、手を伸ばさせる。
突如、ヒンヤリとした感覚が指を襲う。そのあまりの冷たさに驚いて、思わず手を引き抜く。