こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—





 お母さんとお父さんは無言で歩いていた。
 だけど、そこにあるのは厳かな緊張感などではなく、柔らかな微笑みだった。
 二人ともフィリアムと目が合う度にニッコリ笑う。
 わざと安心させるために笑っているようには見えない。


 家屋のあるところを通り過ぎ、何も無くなっても、そのまま歩く事十数分——突然開けた場所に出た。

 誰かが木々を切ったのだろうか。

 そう思ったが、違った。

 また水の膜をすり抜けてその場所に立って、目を見開いた。そこには片膝立てて座る人の群れがあった。その数十六人。子供はいない。

 その人達も両親同様にフィリアムを見て微笑む。


 ——その場は明らかに空気が違っていた。

 幕の中には何かに阻まれるような、ここに立っているだけで足が竦むような……誰をも寄せ付けまいとするじっとりと地を這うような雰囲気——その時抱いた感情が、畏怖というものだと、その時は気が付かなかった。


 そして、フィリアムは重苦しく感じる中で、そこを懐かしく感じた。
 拾われた時のことがまだ頭の中に残っているとでもいうのか。

 だが、それはあり得ない話ではない。
 お父さんに拾われた日からたかだか五年も経っていないのだ。頭の何処かに記憶の欠片が残っていてもおかしくはないのかもしれない。


「其方がラナとセルファの娘か?」


 一番前に座っていた老婆がそう訊く。

 フィリアムははい、と応える。


「名はなんと申す?」

「私の名はフィリアム……フィリアム・ケルト・ダウンマリー、です」

「ふむ……フィリアムか」


 老婆は目を細めると、「歓迎いたそう、フィリアムよ」と笑った。



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