こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
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フィリアムはてくてく歩く。
歩く事数分、木々の合間に隠れるようにしてある井戸に辿り着く。
置いてあった四角い木桶を手に取ると暗い穴の中に放り投げる。
滑車の回る音がして、数秒後ぼちゃんと水の音が聞こえた。
少ししてからバケツについてる紐を引っ張り上げる。
途中から紐が濡れて掌が濡れる。
そうなればもうすぐだ。
暗い穴の中から現れた木桶を手に取ると、足元に置いておいた違う木桶に水をいれた。
それを数度繰り返し持ってきた木桶が水でいっぱいになると、フィリアムは木桶をもとあった場所に起き持ってきた木桶を担いで歩き出した。
流動体である水を運ぶのはかなり難しい。
だが、一ヶ月も朝昼晩とこの行為を続ければ自ずと慣れる。
当初は毎回服をビショビショにして戻っていたが、最近では水を零すことはない。
フィリアムが村に戻ると、どの家からも煙が出ていた。
窓の前を通りすぎるたびに「おはようフィリアム」と声をかけられる。
その都度「おはようございます」と返しながら目的の場所に向かう。
自分が今住む家の前にそれはあった。
「よいしょっと」
木桶を水槽の上で傾ける。
水槽内の水が満杯になって、やっと朝のお仕事は終わりだ。
「お疲れ様」
家の中に入るとお母さんが優しい笑顔を向けてくる。
これがフィリアムの一日の始まりであり——
お母さんが用意しておいてくれた朝食を食べ終えると、待ってましたと言わんばかりにお父さんが立ち上がる。