こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




「……どこにそんな短剣を持ってたの?」

「知られてたら意味ないだろう?」


 フィリアムは少しだけ頬を膨らませると剣から手を離す。それは地面に深々と刺さった。


「また負けちゃったぁ」


 お父さんは豪快に笑いながらフィリアムから刃を離す。


「流石に五つの娘に負けたら格好つかないからな」

「悔しい……いい線いったと思ってたのにー」

「まだまだだよ、そんなんじゃな。よわ〜い妖魔に喰われちまうぞ」


 お父さんは昔、天上では近衛騎士団長の地位についていた。剣を握って一ヶ月、自分が勝てないのは当たり前だ。

 だけど、悔しいものは悔しい。しかも馬鹿にされた。


「いつか絶対勝つ!」

「そうでないと俺が困る」


 “実技”の時間が終われば次は座学だ。

 今日は魔法陣のお勉強。
 魔法陣といっても様々ある。線が数本の簡単なものから、線と言う線が絡み合い、ソラで書けるわけがないと思えるほどに複雑なものまで。覚えることは山のようにある。

 今日も一個何も見ずに書けるようになるまでひたすら書く。書く。書く。

 そして最後に昨日覚えた魔法陣を一個書いて今日のお勉強は終わり。


 お父さんと一緒にお家に帰る。


 手をつないで並んで歩く時間なんて今までなかった。
 だからすごい幸せ。自然と笑顔になれる。


 お昼ご飯を食べた後は、外に行くのが最近の日課だ。

 この広大な森を探索しに行くのだ。


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