こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
「フィリアム、今日はどっちにいくの?」
向かいの家に住むおばさんが窓越しに声をかけてくれる。
ここに住む人達は皆温かい。
今までお父さんとお母さんしか知らなかったフィリアムは、他人という存在に動揺しつつもその温かさを受け入れていた。
「あっあっちの方!デス」
吃りながら指で指し示すと、おばさんはにっこり笑って「エルーちょっとおいでー」と家の中に声をかける。
数秒後ひょっこりと顔を覗かせたのはおばさんの息子のエルダンだ。
歳は十五で、フィリアムより十も年上だったが、この村の中で一番年の近い存在であり、何かと面倒をよく見てくれる存在だった。
「よお、フィリアム。今日も探検か?」
「うん」
「俺も行くよ」
遠慮しても結局ついてくるのはもう知っている。それに、一人よりも二人の方が楽しいことも知っている。
「やたっ!早く早くぅ」
「ああ、今行くから待ってろ」
エルダンは予告通り数秒で家から出てきた。
「気をつけてね?」
「はーい!」
おばさんはよいお返事ですと頭を撫でる。
「フィリアムに怪我させないようにね?」
「わぁってるよ」
対象的にエルはしかめ面だ。フィリアムと出かける度に同じことを言われれば、そんな顔もしたくなるだろう。