こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
「いつもごめんね?」
エルダンの裾を引っ張る。
エルダンは上目遣いで謝るフィリアムに破顔すると思い切り頭を撫でてやる。
「気にすることはないよ」
「うん、わかった」
フィリアムはエルダンの顔に不満がないのを確認してからホッとしたように笑った。
二人は並んで歩く。
フィリアムはこの時間が好きだった。
フィリアムは森の外でのことを話し、エルダンは森の中でのことを話す。
実際にはフィリアムは外でも閉鎖的な暮らしをしていたため、話せることはあまりない。
それでも、話す一つ一つに感想を述べ、熱心に話を聞いてくれる相手がいることは心地よかった。
お父さんもお母さんもフィリアムの話はよく聞いてくれた。
だが、身内ではない人にちゃんと話を聞いてもらえることに奇妙な喜びを感じていた。
「それで?一体それはなんだったんだ?」
「それがね、地の精霊だったの!本では老爺と書かれてることが多かったからもうびっくりしちゃった」
「へぇー、俺もそう思ってたよ。けど、俺には姿見せないからな……」
「え?なんっ……」
弾んだ声はエルダンの手によって止められた。
フィリアムの口をしっかりと覆い、エルダンは息を殺す。
その瞳は遥か先を見つめており、少しも動きやしない。
何を見ているのか聞きたくても、そこに漲る緊張感に唾を嚥下することすらできなかった。