こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
「?」
一瞬だけこちらを見たエルダンに気付いて、フィリアムはエルダンの顔を見つめる。
エルダンは口をパクパクさせて見せてから、勢いよく首を横にプルプルと振る。つまりは「しゃべるなよ」ということらしい。
フィリアムが素直に一度頷くと、ようやく口から圧迫感が消えた。
と思うと素早く腹に手を回され、声を上げる間も無くエルダンの肩に担がれた。
そしてエルダンは駆け出した。
何度見ても驚かされる。
“狩り人”となったエルダンには。
これだけ根が張り巡らされた場所だというのに、エルダンは一切物音をたてずに走る。
尚且つ速い。何も音がしないまま景色は凄い勢いで変わっていく。
大分元にいた場所から離れたところで、フィリアムは肩から降ろされた。
フィリアムはそっと、それこそ物音立てないよう、神経をフル動員してエルダンの後ろに下がる。
エルダンはにかっと笑うと背中にかけてあった弓と矢をとり、構える。
その矢尻の先を視線で辿ると、そこには大きな鹿がいた。それも三頭。
その中で一番端にいた丸々としたメスに標準を合わせ、エルダンは手を離す。
続けてすぐにもう一発。まだ一本目の矢は鹿に届いていない。
フィリアムは真剣な眼差しで成り行きを見守る。