こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
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誰もが眠り、草木も眠る丑三つ時——
月だけが頼り……いや、月の光が届いているか怪しいほどの森の中を一人の少女が走っていた。
不思議なことにあたりに響き渡るのは風の音のみで、他に何も聞こえない。
というのに銀の髪を靡かせた少女——フィリアムは、滑るように森の奥へ奥へと駆けていく。
こんぐらいならもう余裕だもんねー♪
この二ヶ月。
エルダンと毎日森を歩いた。
その間ひたすら、エルダンの歩き方を真似、森に慣れるようたくさん歩いた。
そのかいあって、今ではなんの物音も立てずに走ることができるようになった。
飛べればよかったのだけれど、樹々の間を飛ぶには、自分の翼は大きすぎる。
かと言って森の上を飛べば、森守の存在に気付かれる可能性がでてくる。自分のせいでそうなるのだけは絶対に避けたかった。
だけど堪えることもできなかった。
ここにきて三ヶ月、自分の力もだいぶ分かってきた。
自分の力はすごいってことも既に知っている。
お父さんよりも自身が生まれつき保有している魔力の量が多く、また自然界に存在するマナの中で操れる量も多い。
普通はそれだけの量を操ろうとしても、操れないのだ。
操れるのはそれこそ天上人の上位貴族や、王ぐらいだと言う。
それなのにお父さんの授業では未だに、魔法陣を書かされていた。
魔法陣なんて、元々天上界の人間であるフィリアムには関係がない。
天上の人間が魔法を扱うのに、この不可思議な図形は必要ないのだから。