こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—



「おい……やめろ!!」


 怒鳴ると、照準はエルダンに戻る。


「お前もぐちぐち五月蝿いな……そんなに弾喰いたいんならやるよ」


 そして男は引き金を引く。が、その腕は動かなかった。


「何!?」


 男は金切声をあげながら、腕に必死に力を籠めている。だが、銃にその力が伝わることはなかった。


「なんなんだ、これは!!」


 男は喚きながら、銃を地面に投げ捨てた。
 丁度、足元に来たそれをフィリアムは拾う。


「……私は許してないもの」


 銃を手にしたフィリアムを見て、男は息を呑む。
 殺されると思ったのだろう。フィリアムが銃口を持ち上げると男は腕で頭を庇った。
 だが、フィリアムは銃を後ろに放った。
 柔らかな草の上を滑って、それは止まった。


「ねぇ?」


 フィリアムは、呆気にとられた男に顔を向ける。


「ここから自ら出て行くのと、追い出されるの、どちらがいい?」


 いきなり何を言い出すのかとフィリアムを見れば、背筋が凍る。
 ——目が笑ってない。表情がない。


「答えて」


 男も同じことを考えたのか、フィリアムから離れるように後ずさる。
 しかし、フィリアムも男が一歩離れるごとに一歩前に進む。


「答えないなら——」


 フィリアムは、そう告げると一瞬で男の目の前に立っていた。
 どうしたのかは分からなかった。
 ただフィリアムが足を踏み出した瞬間には、男の目の前に立っていたのだ。


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