こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




「——私が決めちゃうよ?」


 男はそこから一歩も動くこと無く、フィリアムを見た。目の前に化け物がいるかのような目で。フィリアムだってそのことを分かっているだろうに、男を見ても表情を崩さなかった。

 目の前に迫る圧倒的な恐怖に、男は耐えられなかったのか、奇声をあげながら逃げ出した。何を思ったのか、エルダンの方に。
 そして動けなかったエルダンにナイフの刃先を当てた。


「そんなんまで持ってたんかよ……」

「そっ、このガキ!よく聞け!?」


 男は、変に裏返った声で喚くと、さらに刃先を押し付けてきた。


「お前が一歩でも動けばこいつの命はないぞ
!?」


 命がない、その言葉にフィリアムはピクリと反応した、ように見えた。そのままフィリアムは動こうとしない。

 そんなフィリアムの反応を見て男は何を勘違いしたのか、謝れ、なんて言い出した。


「手をついて謝罪しろ!そんで、俺の言うことを黙って聞け!!」


 自分が今有利な立場にいるとでも思っているのだろうか。
 だとしたら、なんて間抜けな男だろう。


 思わず笑い声が口から漏れる。


「……何笑ってんだ」


 何がおかしいって男の頭の悪さに決まってる。
 さっきのあれを見ておいて、そんなことを言えるなんて馬鹿の極み。一度死んで生まれ直した方がいい。
 それとも恐怖で頭のネジ外れたとか?だったらネジを探しに行った方がいい。


「笑うな!!」

「……そんなのムリな注文だってんだ」

「そうかよ……」


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