こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 そっと体を起こす、と、銀の髪がパサリと床に落ちた。
 それをボンヤリ眺めて、そろそろ切ってもらおうかと考えた時、何者かの気配を感じた。


「おかあ……さん?」


 フィリアムは扉の向こうにいるお母さんに呼びかけた。
 しかし、答える声はなく。
 フィリアムは自ら戸を開けた。

 そこに人はおらず、いたのは——


「“お隣さん”?」

《おはよう♪それともこんばんは、かしら?》


 彼女はふよふよと部屋の中にはいってくると、パタパタと顔の周りを飛び回る。


「……なんでここに……」

《フィリアムに見せたいものがあったからよ》

「見せたいものって……?」

《とても綺麗なもの——宝石にも勝るとても綺麗な……。くれば分かるわ》


 さぁ行きましょう?とお隣さんは楽しげに言って、フィリアムの肩をトンと押す。

 その瞬間、脳裏にお母さんの悲しげな顔が浮かんだ。


「……行けないよ」

《え?》

「私……お母さんと約束したから、行けないの」


 そう、約束した。
 外には行かないって。

 お隣さんの誘いがどんなに興味を引くものだとしても、これ以上お母さんに心配かけたくはない。

 そう思って断ったのに。

 お隣さんは牙を剥いた。




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