こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—



「今まで何してたんだ?」

「酷い怪我……」


 巫女はエルダンのことを無視すると、フィリアムの前に跪き一度叩頭し、その身体の下に手を差し入れた。そして軽々と持ち上げる。


「おい、ミリア」

「エルダンも……」


 狼は巫女の言葉に頷くかのように、尾を一度振ってからエルダンの服を咥えた。
 安定しない浮遊感にエルダンは情けない悲鳴をあげた。

 しかし、巫女は気にする様子もなく水の上を静かに渡っていく。そして、神樹の前に着いた時、フィリアムを水の中に沈めた。
 エルダンは神樹の前に転がされた。


「エルダンは……足だけ浸しておけば大丈夫」


 そう言って巫女はエルダンを無理矢理岸に腰掛けさせると、強引に泉の中に足をつっこませた。


「冷たッ!?」

「手も」


 一瞬で凍りついたんじゃないかと、錯覚するほど泉の水は冷たく、重かった。


「どう?」

「なんか……」


 巫女に具合を聞かれ、この感覚をどう説明しようかと頭を悩ませる。


「……すっごくねっとりしてる。水飴みたいに」

「実際は普通の水なのだけど……創造主様の御力を受け止め続けてきた水だから。混ざり込んだ力のせいでそう思うのかも」


 巫女はほら、とエルダンの足を指差す。



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