こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




「もう、塞がりかけてる」

「……ほんとだ」


 掌に空いていた穴は、新たな肉が盛り上がり始めていた。
 服に隠れて分かり辛いが、きっと大腿部も同じようになっているのだろう。


「そろそろかな……?」


 言うなり、巫女は立ち上がってフィリアムを水の中から引き上げた。
 見るも無残だった筈の彼女の顔は、普段通りの綺麗なものに戻っていた。

 その顔をペロリと狼が舐める。
 擽ったそうに身を捩ったフィリアムはただの子供で、あの恐ろしい威圧感はもうなかった。


「やっぱり、フィリアムは……」


 続きを言う前にミリアに口を塞がれる。


 視線で非難の意を伝えると、ミリアは言ってはダメと囁いた。



「聞かれているから」



 誰に、とは到底聞けるはずもなかった。


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