こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—



「あっ、セーラも隠れなきゃダメじゃん」

《隠れなくても大抵の人間には見えないわよ》

「それでも念のため、ね?」


 セーラと言うのは、使い魔(ファミリア)になったエアリエルにフィリアムが勝手につけた名前だ。
 エアリエルはその名をいたく気に入ったらしく、セーラと呼ばなければ反応しない。

 一体誰の使い魔だと思ってんだ。

 まぁ。フィリアムが嬉しそうな顔をしたから、何も言えなかったが。


それにしても。


 娘をこっそりと盗み見る。

 僅か十を数えるぐらいの歳だと言うのに、フィリアムの周りにある魔力は一切の乱れがない。
 魔力を使った後は、何かしら変化が起きるものだ。魔法に触れるものは誰だってそれぐらい肌で感じ取れる。
 だが、フィリアムが魔法を使った後はいつだってこうだ。あり得ない。

 昔はこうではなかった。他の人間と同じように、魔法を使っていたはずだった。
 しかし、熟達して今のようになったのではない。

 今でも覚えている。

 二年前、自分がヘマして蛇の毒にやられた時。フィリアムは泉の水を汲んで帰ってきた。
 すぐに気付いた。フィリアムが纏うものの変化に。

 なんと言えばいいのか——彼女はいつも輝いていた。瑞々しい若芽を伝う雫のように。
 それが、それだけではなかった。
 変わらずに彼女は美しい。輝いている。だが、少し違う。


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