こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—



 その男はいかんいかん、と慌ててそれ——斧から手を離す。
 フィリアムが固唾を飲んで地面を見つめる。目の前で、斧が深々と地面に突き刺さるのを見たら誰だって緊張するだろう。
 それよりも男の何が恐ろしいって、それを振り上げたまま気さくに話しかけてくるところだろう。頭を思わず疑ってしまう。
 警戒してのことならまだ分かるが。男は至って笑顔で、警戒のけの字も見えない。


「さてと、これでひとまずは気が済んだか?」

「ひとまずは、な」

 
 男は人懐こそうな笑みを浮かべる。顎髭を撫でつけているのを見ながら、あいつもこんな髭をしていたな、と思う。そして、大雑把な性格をしていた。まさしく目の前の男のように。


「……お父さん、笑ってる?」


 フィリアムに言われてから、気付く。確かに笑ってる。緩んだ口元を引き上げ、気をしっかり持つ。
 似てるとは言え、あいつがここにいるとは思えない。あいつはこんな醜男ではないし、何より“声”が違う。
 

「で——お前らはなんでこんなとこにいる?この先には何もないぞ?」

「じゃあ、あんたは一体なにやってんだ?」

「俺は、木を切ってる。木こりをやってるもんでなー」


 自称木こりは視線で促す。確かに茂みの先には大量の薪がちらばっていた。と言ってもある程度は綺麗に積まれている。燃やすためのものなのに。

 案外、大雑把なだけというわけでもないようだ。


「それ売って生計たててるわけだ?」

「それしかないだろう?」

「じゃあどこに売りに行くんだ?——ここから普通の一番近い街まで一ヶ月かかるけど?まぁ、そこでもあんたは一瞬だろうがな」


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