こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 男は素早くフィリアムの腰を掴み、肩に担ぐと姿を消した。

 さざ波のたったような、目の前の幕を呆然とみる。


「セルファ!」

「あ、ああ!!」


 慌ててラナと共に続く。まさか、木こりがフィリアムに対して何かするとは思えなかったが、それでも不安はある。
 冷たい水の幕は一分走っても終わらない。何せ水の中。抵抗もあり、焦ってもがけば疲れるだけ。こういう時は一歩一歩確実に進んでいくしかない。
  自分はここを二回通ったことがある。だから後どれだけ走ればいいのかを知っている。だが、もどかしいことには変わりない。


 底なし沼から足を引き抜いた時、このように感じるのだろうか——

 幕から抜けた時、ふとそう思った。


 そして数年前と変わらずにそびえる巨壁を眺める。

 その壁の向こう側こそが、目的地。
 ここまで来ればもう着いたも同然。


「速かったなー」


 壁に気を取れれて気付いてなかった。

 自分が立つ真っ直ぐその先、壁に寄っかかって座る木こりの横に無事なフィリアムの姿を見とめて、胸を撫で下ろす。
 フィリアムはどことなく呆れ顔だ。


「私だって普通に通れたのに」

「いんや、君ぐらいだったら途中で溺れてたな」


 やれやれとフィリアムは首を振った。


「人のこと勝手に決めつけちゃいけないって教わらなかったの?」

「生憎、俺は人のことを決めつけなきゃいけないんでな」

「……変な人」


 木こりはそうか?と首を傾げる。



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