こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
そんなの聞いてねーぞ。
咎める視線を投げかければ、木こりがすっと前に出た。
「まぁまぁ、待てよ。俺は国民だ。書類が無くたって、俺が今ここで紹介すればいいだけだろう?」
「それでも構わないが、では、貴方の名前と職を」
「俺はロイド・マーカード。木こりをやってる」
門兵の眉がピクリと動く。
「木こり……だって?」
その口元に浮かぶのは嘲笑だと気がついた時、木こりの首にサーベルの切っ先が当てられていた。
「貴様……嘘をつくのならもう少しマシな嘘をつくんだな」
「おいおい、なんで嘘だって思うんだ?ほら背中に薪だってあるぞ?」
木こりはほらほらと背を門兵に向ける。
武器を向けられている状況なのによくもまぁそんな大胆に振舞えるな、と不覚にも感心してしまった。
そんな中、門兵は嘲笑することすら忘れて、ながいながーい溜息をついた。
「薪なんてものは、魔術を使う我等にとって置く場所に困る無用の長物に他ならない。それなのに、木こりなんて職業は成り立つと思うのか?」
なんか、時間が止まった気がした。
「仮に木を使ったとしても、それぐらい簡単に作り出せる。そんなものに金を払う者がいるとでも思うか?」
はい、本当にその通りだと思います。今更だとは思いますが。
「——さて、外の者を連れて何をしようとしてたのか教えてもらおうか」
後ろに突然現れた気配に振り向けば、首筋に冷たいものが触れた。
「おいおいおいおい……まぁ、俺に刃を向けるのはいいが」
ラナの首筋に当てられていた門兵の手を払いのける。