こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
「俺の奥さんに勝手に触れてんじゃねぇよ」
ラナとずっと自分の服にひっついていたフィリアムを腕の中に囲う。
門兵の片割れは今迄石像の如く、全く動きやしなかったってのに、見事な連携を見せる。二人を連れて逃げるのは難しそうだ。
くいくいと服を引っ張られて下を見るとフィリアムと目があった。
その顔は不安で強張っていて、見てて辛くなる。そんな顔をさせるのはとても不本意で、腹立たしかった。
「ああ、もう……おい」
苛立ち紛れに木こりの背中に向けて呼びかける。
「……お前はいつまで職業詐称するつもりだ?——なぁラマ?」
門兵は怪訝な顔つきになる。当たり前だ。
だが、木こりはニヤリと笑った。
表情など見えてなんていないが、分かる。
「——いつから分かっていたのだ?」
正直半信半疑ではあった。だが、その話し方で疑いは確信へと変わった。
「そういう芝居がかった口調やめろよ。ほんとマジで」
「元々こういう口調だと言っているだろう」
自称木こりが、両手をあげる。すると、木こりの頭上に円状のものが浮かぶ。先程までは無かったものだ。
それは木こりを通すように垂直に降りて、地面に触れるとパリンと砕けちった。
そして、そこに立っていた懐かしい姿に思わず顔が綻ぶ。自分の勘はやはり間違っていなかった。
サーベルを向けていた男は驚いて、慌てて手を下ろし地面に片膝つけて首を垂れる。長い艶やかな黒い髪を見て、セルファの後ろにいた門兵も気付いたらしい。
すぐに離れて片膝ついた。