こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—



 フィリアムは蹲って泣くことしかできない。
 昼間の怒声と悲鳴はここから聞こえてきたと気付いたのだ。
 あの時気付いていたとしても、こんなところに街があるとは知らなかった自分には、どのみち何も出来なかった。
 だとしても、自分は近くにいて、助けを求める叫び声に耳を塞いでいたのだ。

 悲しくて、悔しくて……心がぐちゃぐちゃになって、ただ涙を流すことしかできない。


 マナがフワリとフィリアムの頬を掠める。

 暖かい。その白い光は暖かかった。


 その光を追って顔を上げる。

 そして気付いたその影に、フィリアムは見間違えかと目の涙を拭う。
 視界がクリアになったフィリアムは、それが見間違いではないことを認識する。


「人が……浮いてる」


 呆然とつぶやく。
 そしてそれの背中にあったものにハッと目を見開く。

 そこにあったのは立派な翼。


「天上人……」


 思わず呟いた。
 その姿を持つ者の呼び名を。







——ユカシア戦争の発端は天上人



彼らの王はこの世界を自分のものとする宣言を発した



それが、長きに渡る戦争の始まり



天上人は地上の人間を支配下に置こうとし、



地上の人間を虐殺しながら回った



そして五つの大国の王を処刑した日、



人は抵抗する気力を失い、



この世界は完全に天上人のものとなった






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