だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「自分の出来ることを、まずはしっかりこなします。ただ、反省会には付き合ってくださいね」
そっと、櫻井さんの手から離れるように身をかわす。
口角をあげてにっこりと笑う。
何事もなかったかのように。
それを見て、櫻井さんもにやりと笑った。
軽くぺしっと頭を押さえられる。
「いい顔だ。行ってこい」
そう言われて、小さく頷き部屋を後にした。
廊下の人並みを掻き分けながら、櫻井さんらしい物言いをかみしめていた。
見ていないようで、しっかりと周りを見ている櫻井さん。
あの人のそういうところが、時折私を苦しくさせる。
日増しに感じる、櫻井さんとの距離感の変化に自分は何を想うのだろう。
仕事の間にふとよぎる気持ちには、しっかりと蓋をしておかなくてはいけない。
余計なことを考える余裕なんて、今の私にはないのだから。
忙しさで乱れた身だしなみを整えるために、鏡のある控え室に向かってから伝達事項を届けようと決めた。