だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
実直...ジッチョク
「「乾杯」」
いつものお店のビールジョッキを二人で合わせる。
今日は隣ではなく向かい側にいる森川に、若干の違和感を感じるが気にしないフリをした。
お店に入った時、店内は少し混雑していたが、カウンターは何席か空いていた。
けれど、森川は入り口から程近い、壁で仕切られた小さなテーブル席に向かった。
そこは、森川が彼女と別れる時の相談と、私がふらふらして夜遊びが激しくなり見かねて森川が説教をした時。
その二回しか座ったことのない席だ。
つまり、この席は『大切な話をする席』なのだ。
いつものように注文を済ませ、二人で他愛もない話をする。
いっぱい歩いたね、とか、足疲れてないか、とか。
何気ない風を装って、森川がいつ切り出してくるのか、内心どきどきしていた。
目の前の森川はごくごくと美味しそうな音を鳴らして、物凄い速さでジョッキを煽っている。
純粋に喉が渇いていたのか、あっという間に一杯目のビールを飲み干してしまった。
けれど、次はすぐに焼酎に切り替えてしまう。
のんびりと飲むのは焼酎に限る、と最初の頃に森川は言っていた。
私も一緒に焼酎を飲みたくなって、汗をたっぷりかいたジョッキを傾けて半分近く入っていたビールを飲み干した。