だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「返事はすぐには出来ない」
「まぁ、すぐにする必要はなだろうけどな」
「・・・うん」
「でも、ちゃんと考えろよ。自分のことなんだから」
「わかってるけど、想像出来ないよ。誰かの隣にいる自分、なんて」
静かに森川に告げた。
グラスを弄びながら、それでも規則的にお酒を流し込む。
少しでも酔いが回ったほうが、話せることが増える気がした。
「櫻井さんだから駄目なわけじゃない」
「じゃあ、何が?」
「多分、今の私には次に踏み出す勇気がないんだと思う」
「『今の』か・・・。じゃあ、いつならいいんだよ?」
「それは、分からない・・・けど。きっと、誰が相手でも同じ。狡いのはわかっているけど、このままうやむやにしたい。櫻井さんは、きっと無理に私の返事を聞きたいわけじゃない気がする」
本当に嬉しい、というように笑った櫻井さんを想い出す。
私の顔を見た櫻井さんの顔は、とても晴れやかだったから。
そして、何かから開放されたみたいだった。
「ただ、伝えたかった。そんな顔をしてたの」
その顔を私は前に見たことがあるから。
――――――あの時と、同じ――――――
諦めたわけでも、悲しいわけでもない。
ただ、相手に自分の気持ちをわかって欲しかった、というような顔。