だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
そう言って渡すと男の子は嬉しそうに笑っていた。
けれど、男の子はそのペットボトルを飲もうとしないので、不思議に思って聞いてみた。
「ごめん、ソレ、苦手だった?」
我が家のスポーツドリンクは決まってアクエリアスなのだが、ソレが苦手な人もいるよ、と言われたことがある。
ポカリ派なのかな、と私は単純な頭で考えた。
すると、男の子はふるふると頭を振って私の方をしっかり見ていた。
ぶつかった目線があまりにも真剣で、私もじっと見つめ返した。
「違うんだ。山本から貰ったからもったいなくて開けられなくて」
我が家の冷蔵庫に入っていたアクエリアスがそんなに嬉しいのかな、と不思議に思った。
でも、私もその感情を知っている。
例えばそれがラムネのビー玉でも、湊がくれた物が私の宝物になるのと同じなのだろう。
そう思った瞬間、胸が苦しくなった。
同じような切ない想いを抱えていることを知ってしまったから。
私はその感情に名前をつけられずにいたのに。
合わせた目を離すことが出来なくなって、そのままじっとしていた。
何か口にしようとする度、男の子の目の中が静かに揺れた。
それは不安で揺れている、というよりは、覚悟が決まらない、といった感じだったような気がする。
ただ、息の詰まりそうな時間を何も言わず待っていた。