だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
けれど、その時の私はそんな事を知っている訳もなく、どうしてあんなに大人っぽい事を言っていたのだろう、と考えていた。
ベンチに置かれたアクエリアスは一口飲んだだけで、汗だくになっていた。
ぼんやり見つめた先の公園には小さな子供を連れた家族が何組か遊んでいた。
片方にお父さん、もう片方にお母さん。
両手を繋いではしゃぐ小さな子供を見て、とても寂しい気持ちになった。
私も、ああして歩いていた。
まだ小さな頃の、幸せな記憶。
シロップのような世界は一瞬で砂糖の塊にだってなれる。
固まってしまった心を溶かしてくれるのは、誰だろう。
今の私にはわからない。
そんなことよりも、胸の奥が苦しくなっていくのを非道く怖いと思っていた。
現実味のないふわふわした感覚の中で、ベンチに座ったままその場を動けなかった。
誰かに助けて欲しくて。
でも、誰に縋っていいのかも分からなくて。
ただ、ひたすら。
湊に逢いたいと想った。
今すぐ此処に来てくれたらいいのに、と。
ただそれだけを、想った。
「・・・湊・・・」
見上げた空は、さっきより少し雲が増えていた。
それにも負けないほどの抜けるような青空に、眩しくなって目を閉じた。
青すぎる空は、悲しい。
どうすることも出来ず、その場を動けずにいた。
青い空が、とても近く感じた。