だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
涼風...スズカゼ
「時雨」
その優しい声にふと我に返る。
後ろから呼ばれたその声は、いつも私の右手を引いてくれる優しい人のものだった。
静かに近づいて私の右側に座る。
優しい気配がしても、私は俯いたままだった。
「優希ちゃんから電話があったよ。告白はどうなったのか、って。石田くんを振るなんてことないと思うけど、って」
優希は心配性の上、とってもおしゃべりだ。
湊にそんなことまで言わなくてもいいのに、と思いながら、その電話のおかげでこの場所に湊が来てくれたのだと思った。
「それで、どうしたの?」
「・・・」
「まさか、付き合うことになった?」
「・・・断った」
「・・・そう」
「ねぇ、湊。どうして『好き』に種類があるのかな」
そう言って、湊に顔を向ける。
泣いてはいなかったけれど、泣きそうになっていたかもしれない。
だって、苦しかったから。
湊が来るまでずっと。
一人で胸の奥が潰れそうなくらい、苦しかったから。
湊はいつも通りの優しい顔で、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「それじゃあ、少し例え話をしようか」
そう言うと頭にあった湊の右手が離れた。
そのかわり、私の右手がひんやりとした湊の左手に包まれた。
その冷たさは、私のふわふわした気持ちを現実の暑さに呼び戻してくれた気がした。