だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「透明な水に白い絵の具をつけた筆を入れると、どうなるかな?」
楽しそうに湊は言った。
私は、何を言っているのか分からずぽかんと口を開けていた。
何の例えかわからなかったので、じっと湊の顔を見つめていた。
「ほら、答えて」
「・・・水はすぐに白くなる」
湊が目線で私に答えを促す。
少し考えてゆっくりと答える。
「そうだね。透明な水は、すぐに白くなるね。じゃあ、白くなった水に黒い絵の具をつけた筆を入れると、どうなるかな」
「灰色になる、でしょ?」
「そうだね。でも、それも沢山入れると黒くなってしまうのは、知ってる?」
私はこくん、と頷く。
湊が何を言いたいのかわからなくて、不思議な顔をしてしまう。
湊は種明かしをするようにゆっくりと話を始めた。
「初めはね、誰もが透明な何もない気持ちを持っている。そこに『自分』の色が付く。何色でもかまわない」
「自分のイロ?」
「そう。そこに誰かのことを考える気持ちが混ざる。それは、自分の色ではない色が混ざる、ということだよ」
「何色?」
「何色でもいい。それが、誰かの色なら。そうして少しずつ、相手の色で染まっていくんだ」
透明。
確かに、透明だった。
自分の気持ちに色など無かった。
けれど、色づいた。
自分の中に色が生まれたことが、今なら分かる。
湊は、にっこりと笑った。
柔らかく、優しく。