だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「色は少しずつ変化する。薄い色から、濃い色へ。それは気持ちも一緒。だから、同じものになろうとしても沢山の一面を持っている」
「たくさんの、いちめん」
「そう、たくさんの」
そうなの。
色んな気持ちがあって苦しい。
自分の気持ちじゃないみたいで。
「『好き』の形もひとつじゃないんだ。それで、いいんだよ」
そう言って、湊はもう一度そっと笑う。
そして、じっと私を見つめている。
湊の黒目の中に、不安げな私の顔が映っていた。
「白が黒になるためには、まず灰色にならなくてはいけない。白からすぐ黒にはなれない。時雨の気持ちもそうだろう?」
「そうだと、想う」
「ね?」
「すぐには、変われない気がする」
「いいよ、それで。好きと嫌いだけじゃない。好きじゃなくても、嫌いにはならないはずだ。そういう感情があるのは当然のことなんだよ」
その通りだと思った。
嫌いなわけじゃない。
でも、好きとも違う。
どちらか一方を選ばなくてはいけないなんて、おかしい気がしていた。
でも、湊は当然だと言って笑ってくれた。
その言葉で、私はどうにも出来ない気持ちを受け止めることが出来た。
私よりも早く、湊はそういう想いをしてきたのかな、と考えて少し寂しくなったけれど。