だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「時雨は石田君が嫌いだった?」
ふるふると首を振る。
彼のことを嫌いだったわけではない。
「じゃあ、石田君と同じ気持ちを返してあげられる?」
もう一度ふるふると首を振る。
きっと、好きの気持ちはゼロじゃない。
彼に好感を持ったのは確かだ。
けれど、同じ気持ちは返せない。
その気持ちは彼には向けられない。
「時雨の気持ちは時雨のものだから、それでいいんだ。それは一つも悪いことではないよ」
そう言った湊の顔を見て、私の目からぽろぽろと涙がこぼれた。
湊は私をあやすようにそっと抱きしめてくれた。
小さな子供にするようにぽんぽんと背中を撫でて。
初めて人を傷つけてしまった罪悪感。
それでも、胸にある気持ちに嘘はつけない。
告白されて、改めて自覚した。
本当はずっと前から特別だった。
けれど、いけないことだと知っていた。
それでも、彼が言ってくれたから。
『言わずにいられなかったんだ』、と。
彼の満足そうな顔は、私の胸を締め付けた。
それと同時に、私に変化を起こしてくれた。
『相手に伝える』ことの大切さを。
『相手に知ってもらいたい』気持ちを。
私は、知ることが出来たんだ。
『恋愛感情』というものを。
その、苦しくて怖いモノを。
けれど、嬉しくて大切なモノを。