だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「ほら、時雨。空もつられて泣いてるよ」
空からは、ぱらぱらと小さな雫が落ちてくる。
空は相変わらず雲の少ない晴れた空なのに、乾いた地面に水玉を作っていく。
葉っぱに当たった水滴は、私と湊を濡らす。
暑さで火照った私の身体は、その水滴に少しずつ冷まされていった。
私を抱えたまま、湊がかごの鞄の中に手を伸ばす。
私がいつも持ち歩いている小さな折り畳み傘。
何も言わずにそれを広げて二人でその中に入る。
雨は静かに辺りを濡らし続けている。
「天泣というんだ」
テンキュウ。
耳慣れないその言葉を、空を見つめながら聴いていた。
「天が泣くと書くんだよ。晴れているのに雨が降ること。」
どうして雨が降るのかはわからないけれど、空が泣いている、というのは理解できた。
「天気が良すぎると、なんだか切なくなることはない?」
「ある。だって晴れすぎている空は、なんだか悲しい」
「それは空が泣きたい時なんだよ、きっと。だから、たまにこうやって涙を流すんだ」
空だって、いつも元気なわけじゃないんだ、と思った。
快晴のまま泣く空を見て、笑い泣きのようだな、と考えていた。
「笑っているのに、泣いているみたいだね」