だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「失礼します!」
大きな声で本部に入ると、ディレクターと尾上部長がこちらを振り返って驚いた顔をしていた。
さっきまでは大人しいキャラぶっていたけれど、さっき剥がされてしまったから。
そんな事、今は必要ないのだと気付かされた。
おしとやかでなくても、作った自分でなくても。
笑っていつも私のままで仕事は上手く回るのだと、背中を押してもらったからかもしれない。
「お疲れ様。いつもの山本に戻ったな。緊張してたか?」
「はい・・・。ご心配おかけしました。もう、大丈夫です」
「そうか。いい顔になったな」
「そのままの方が自分らしいって、気付きましたから。外に出て、現場に出て。取り繕ってる余裕なんてない、って分かりましたから」
尾上部長は楽しそうに笑っていた。
私にかけてくれるその言葉を聞いて、やっぱり見てくれているのだな、と感心してしまう。
「それと、最終伝達事項です。何かあれば、後は無線で連絡を取り合う方が早いと思います。フィナーレまではインカムをフル活用でお願いします」
「舞台袖は?」
「すでに森川達が配置済みです。私もこのまま袖で待機します」
「会場誘導は?」
「先ほど御二方にお願いしてあります。男性の方がすぐに動けるので、会場には男性スタッフを配置してあります」
てきぱきと指示内容を伝える私を見て、ディレクターもぽかんとしている。
視線を感じて顔を向け、にっこりと笑って見せた。
ディレクターは楽しそうに笑い、尾上部長に向き直った。