だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「時雨は十二歳になったんだよね」
唐突に湊が言う。
私はきょとんとして、うん、と答える。
当然のことを聞かれて、不思議に思う。
だって、いつも湊は私の誕生日を忘れない。
誕生日の前からもうすぐ何歳だね、と嬉しそうに私に言ってくるのだ。
そんな湊が私の歳を知らないわけがない。
「少しずつ大人になる時雨を、楽しみにしてた。なのに、時雨は急に大人びたね。石田君のせいかな」
「そんなに、大人になった?」
「そう、かもね」
空を見上げて、ふうと息を吐く湊。
その横顔がなんだか翳った気がして、私は何も言えずにいた。
いつもと少しだけ違う湊。
ちょっとだけ、怖い。
大人の男の人の気配がする。
「時雨がこんなに早く告白されるなんて思わなかった。こんなに早く、時雨に気付いてもらう予定じゃなかった」
湊が言う言葉の端々に苛立ちがこもる。
いつも穏やかな湊しか知らない私は、びくびくと怯えることしか出来なかった。
「時雨」
こちらを向いた湊は、今まで見たことのない顔をしていた。
真っ直ぐな視線。
笑顔の浮かばない表情。
大人の男の人の顔。
「時雨を誰かに渡す気なんてない。これからもずっと、僕のものだよ」
どういうこと?
私には難しいことはわからない。
もっと、簡単に言って。
心の中で湊に言った。
揺れる目を見て、湊はもう一度口を開いた。