だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「時雨が好きだ」
「・・・ホント?」
「あぁ、ホント。家族じゃなくて一人の人として、時雨が好きだよ」
息が苦しい。
時間が止まりそう。
湊の言葉が胸に届いた時、私は固まったまま動けなかった。
ただ目の端を伝う涙が、ぽとりと顎から落ちる感覚がした。
ふいに強い力で引き寄せられて、私は湊の腕の中にいた。
強い力で息が出来ないほど抱きしめられたけれど、その力が、夢ではないと教えてくれた。
「・・・僕、ロリコンかな」
「ふふふっ、大丈夫。もっと大人になるよ。湊が恥ずかしくないように」
ぼそっと湊が言った言葉。
ため息をついて深刻そうに言うので、可笑しくなって笑ってしまった。
私が返事をすると頭の上でくすりと笑う気配がした。
「ゆっくりでいいよ。僕が傍で見ててあげるから」
そう言ってそっと私を抱きしめた。
今度は柔らかく包むように。
そして頭の上に優しくキスをくれた。
柔らかい感覚が、幸せを連れてくる。
ごめんね、石田君。
でも、私は石田君のおかげで気付けた。
湊を想う気持ちが、本当に『恋』なんだって。
憧れではなく、傍にいたいと想う気持ち。
ずっと芽生えていた気持ちが、大きな葉をつけだした。
突然、ぐいっと顔を覗かれる。
湊は笑っているけれど、やっぱりどこかピリピリしている笑顔だった。
向けられた視線にびくりとして、私は視線を合わせた。