だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
明瞭...メイリョウ
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「私、その男の子の顔を思い出したんだ。その子は結局返事を求めたけれど、わかっていて聞いた、って感じだった」
手元のグラスには半分以上焼酎の入った水割りが入っていた。
目の前のテーブルには、二本目の焼酎が封を切られて半分くらいになっている。
ゆっくりと小さな頃を思い出しながら、森川に石田君の話をした。
彼の名前が石田君だったのだと、さっき湊の声を想い出しながら思った。
水滴だらけのグラスをおしぼりで軽く拭いて、ことりと置く。
森川は相槌を打ちながら、時折そうか、とか、それで、とか話を促してくれた。
思い出す速度も話す速度もゆっくりになるようにしていた。
そうしなければ、私は簡単に湊の声に引き込まれて、何も話を出来なくなってしまうだろうから。
「今思えば大人びた子だよね。『知ってて欲しかった』なんて。中学生になりたての、まだまだ子供の境界線の中にいたのに」
森川はじっと考えていた。
森川に話したのは、石田君に告白されたこと。
その告白を断ったこと。
そして、その子がとても大人びていたこと。
その告白の後、ぼんやりとしていて現実味がなかったこと。
その告白のおかげで、世の中は白と黒じゃ分けられない、ということ知ったこと。
湊のことは、何一つ話さなかった。
いや、話せなかった。