だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





「・・・腑に落ちないな」


「え?」


「腑に落ちない、って言ったんだよ」


「何が?いいじゃない、昔話だよ」


「白と黒の話は、自分で気付いたこと?」




森川はじっと私を見つめている。

私はじんわり水滴が浮いてきたグラスを手に持って、焼酎を口に運んだ。

話をする度に口が渇く気がして、冷静さを取り戻すために胃の中にお酒を入れる。


ただ緊張しているだけなのかもしれない。




「違う。兄に言われた」




なるべくそっけなく響くように言った。

それ以上の詮索はさせない、とばかりに私は手元のグラスを飲み干した。



森川は驚いた顔をしていた。

それも当然だ。

兄がいるなんてこと、誰にも話したことはないからだ。

この前、櫻井さんに伝えた以外には、誰にも。



何か言いたそうな森川の顔を見て、そっと目線をはずす。

緑色の瓶に手を伸ばし、こぽこぽとグラスに注ぐ。

氷はまだ残っているので、そのまま水を足してかき混ぜた。


一口飲んでグラスを弄ぶ。

からからと氷が鳴る音がしている。



目の前で森川が氷に手を伸ばす。

グラスの中にひとつ、ふたつと転がる氷を見つめる。

私はそのグラスを片手で持って、目の前に持って来る。

焼酎を注ぎ足して水を入れて混ぜる。



森川用に少し薄めに作って。



差し出したそれを、ありがと、と言って受け取る。

飲み込む森川の喉の音は、相変わらず美味しそうに響く。

私はまだグラスを弄んでいた。

森川の視線が痛い。




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