だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
駅に向かう階段のところで立ち止まる。
森川はどうやらタクシーで帰るようだ。
「今日は本当にありがとう。結構飲んだから、明日寝坊しないようにね」
「わかってる。時雨もな」
うん、と頷いて森川を見る。
大きな黒目は眠そうに少し垂れているように見えた。
ふっと笑って、森川は私の頭に手をのせた。
ぽすぽすと頭の上で上下するその感覚に、眠気が増していく。
ふいに手が止まって森川の熱い右手が私の左頬に触れる。
火照った顔でもわかるほど、熱い感覚を残すその手に、びくり、と身構えてしまう。
それを見て、森川が少し笑い、そのままぶにっと引っ張った。
「・・・っちょっと!」
頬を掴まれる。
楽しそうに笑う森川の手を撥ねのけて、少し怒った顔をする。
からかうつもりでやったのが、すぐにわかって悔しくなる。
「そういう顔してろ。最近、会社でしてないだろ」
言われてみればそうかもしれない。
そんな態度でいれば、森川でなくても、みんな気付いていたのかもな、と思う。
あえて何も言わずにいてくれる優しさ。
あえて言わせようとする優しさ。
色んなものに支えられているな、と感じた。
そして、もう一度笑って見せた。