だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「他の人にも言われたんですよ。同じこと」
「あ、そうだったの?ごめんね、お説教臭くて」
「全然!他のヤツに言われたときはイラッとして。でも時雨さんに言われると、そうかもな、って思えました」
「ほんとに?」
「本当ですよ!忙しさを知ってるからかな。時雨さんに言われると納得できました。ちゃんと伝える努力をします」
「それがいいよ」
小さく笑ってお茶に口をつける。
この仕事を誰かにわかってもらうのは、とても大変なことだ。
そのことを私はよく知っていた。
可愛い後輩にはそんな想いはして欲しくない。
仕事を減らしてあげることはきっと難しい。
彼女に会う時間を作ることは簡単には出来ないかもしれない。
でも。
それでも、彼女にしてあげられることはしてあげて欲しい。
そう思った。
「忙しいことがわかってても、我が儘言いたいの」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。困らせたいわけでもない。矛盾をいつも抱えてるのよ。持て余すほどにね」
松山の顔は真剣だった。
昼間からこんな話をするのはなんだか恥ずかしい。
目の前にこんなに真剣な顔があるなら、余計にそう感じる。
柄にもないことを言ってしまった、と思って恥ずかしくなる。
出ようか、と言って伝票を持って立ち上がった。
恥ずかしさを紛らわせるために、少し早足にレジに向かって歩き出す。