だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





「他の人にも言われたんですよ。同じこと」


「あ、そうだったの?ごめんね、お説教臭くて」


「全然!他のヤツに言われたときはイラッとして。でも時雨さんに言われると、そうかもな、って思えました」


「ほんとに?」


「本当ですよ!忙しさを知ってるからかな。時雨さんに言われると納得できました。ちゃんと伝える努力をします」


「それがいいよ」




小さく笑ってお茶に口をつける。


この仕事を誰かにわかってもらうのは、とても大変なことだ。

そのことを私はよく知っていた。


可愛い後輩にはそんな想いはして欲しくない。



仕事を減らしてあげることはきっと難しい。

彼女に会う時間を作ることは簡単には出来ないかもしれない。


でも。

それでも、彼女にしてあげられることはしてあげて欲しい。



そう思った。




「忙しいことがわかってても、我が儘言いたいの」


「そうなんですか?」


「そうなのよ。困らせたいわけでもない。矛盾をいつも抱えてるのよ。持て余すほどにね」




松山の顔は真剣だった。

昼間からこんな話をするのはなんだか恥ずかしい。

目の前にこんなに真剣な顔があるなら、余計にそう感じる。



柄にもないことを言ってしまった、と思って恥ずかしくなる。

出ようか、と言って伝票を持って立ち上がった。

恥ずかしさを紛らわせるために、少し早足にレジに向かって歩き出す。




< 139 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop