だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「驚かせるなよ、水鳥嬢~」
「あら、部長。思ったことを言っただけですわ」
「いやぁ、俺も一瞬ヒヤッとしたね」
「それは申し訳ありませんでした。お二人とも自信満々だったから、こんなことくらいでは動じないかと」
「水鳥嬢の冷めた声は、心臓に悪い」
「失礼ですね、本当に」
そんなことを言いながら、みんな楽しそうに笑っていた。
こんな現場を経験できて本当に幸せだと思った。
出来ることが少ない分、自分の糧に出来るものは多いはずだ。
それだけで、今笑って仕事をしている事がとても意味のあることなのだと知った。
「では、伝達事項をお伝えしましたので、私は舞台袖に向かいます。男性営業は三名ともエスコートに入っていますので、支持は私にお願いします」
「了解しました。山本さん、よろしくお願いします」
「何かあったら櫻井に行かせるからな」
「シグなら大丈夫よ。頑張って」
「はい!行ってきます!」
一礼して本部を出ようとすると、ディレクターに声を掛けられた。
嬉しそうな顔をしているけれど、どこかニヤついている三人に訝しげな目線を向けた。
「フィナーレが終わったら、女性スタッフのために特別なプレゼントを用意していますので、楽しみにしていてください」
ディレクターはとっておきの悪戯を思いついた子供のように、楽しそうな顔をしていた。
不思議に思ったが、にっこり笑って本部を後にした。
ライトアップまであと五分。
私は舞台袖を目指して、少し早足で歩き出した。